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ブログ記事

「一月の終わり」

 空虚な傷跡に触れられる人はもういなかった。私はご主人様の死に顔を見ながら、涙の出ない自分に、人生で一番大事なものを、私の中の最も「生」に満ちていたものを失ってしまったのだと感じた。

 四十七歳での脳梗塞。一月のことだった。早すぎる死だったし、私たちの繋がりは途切れることはないと安心していた。

 私の肌にまだ残る昨日の鞭の痛みが、全身を蝕んでいる。この痛みが消えてしまえば、ご主人様がもう私の中から、この世界からすべて消え去ってしまう気がした。

 剥き出しの傷跡こそが、ご主人様への愛の証であり、服従し陵辱されることが、私の彼への忠誠と愛情の表現でもあった。

 もう新しい証はできない…。

 ご主人様のいない世界なんて、私にとって欠片ほどの価値もない。もはや愛情を注ぐ人もいなくなった自分に、他人なんて泥で作られた顔のない人形にしかすぎない。

 この世界はぬくもりを失って、すべてが意味のない物体の羅列のようだった。

 人々の喧騒さえもノイズに聞こえる。ネオンの光さえもナイフのように心を刺す。

 私はいくつものナイフに串刺しにされても、痛みを一つも感じないし、嬉しくも悲しくも辛くもない。

 夜の繁華街は光をくるくるとまわらせている。なにかが私に音をかけてきている。まるで腐りきった嘔吐物のように、耳へと流れ込んでくる。もう嫌だった。

 どこにいても、気持ちが悪いだけで、私に愛情を注ぎ続けるものはなかった。

 部屋には残された道具がある。満ちていたものが失われ、ただの無機質なものに変わってしまった部屋の中には、私を傷つけ拷問のようにいくつもの苦痛を強いてきた道具たちがあった。私は苦痛を感じて、ご主人様に泣き喚いて許しを請うていながらも、私の体を使ってくれて、私を必要としてくれて、出すぎた感情だとはわかっていながらも、ご主人様の愛情を思って涙していた。

 プレイが終わり、優しく髪を撫でるあの手が、冷たく硬直してもう二度と動くことはない。あの口が私をなじり、けなすこともない。雑巾のように踏みつけにされ、尻が腫れるまでぶたれることもない。拘束され、意識がおかしくなって壊れてしまい、もう正常な意識など戻すことはないのではないかと思うほど陵辱されたりはしない。

 私の生きる意味も、この世界が世界として存在する意味も、すべて私の中からなくなってしまった。私は私でいなければならない理由を、幻を掴んだかのように失ってしまった。

 気がつけば、最初にご主人様に出会った場所に来ていた。海が見える。すべてのぬくもりを奪う冷たい海が。

 一月の日本海はとても寒く、湿った雪を降らせながら荒れていた。

 灯台は荒れた海を照らしている。その下で私はぼんやりと海を眺めていた。

 灯台は魂の行く先を照らすように彼方を一瞬だけ照らし、光を回転させている。まるで生きていた頃の私のように、輝く光を放って、私が行くべき先を示している。その光が今は私の胸から消え去った魂を宿して燃やし輝き、私の魂の眠る場所を照らしている。

 私はコートを脱ぎ去り、吹雪の中に素肌をさらす。薄暗い中に少しだけ見える左腕の傷跡を眺める。

 強度のリストカッターだった私を、人間らしい喜びと苦痛に満ちた世界へ連れて行き、私に「生の意味」を教えたのがご主人様だった。

 私の中を掻き乱し、まるで底にある泥を救って水槽の水を荒々しくめくるようだったのに、私の気持ちは澄んでいくばかりだった。

 私は体に残る無数の鞭の痕を自らの手で撫で回した。湿った雪が肌へと打ちつけ、肌の感覚もなくなり、手がかじかんで動かなくなってくる。それでも、「自分が凍えている」とは思わなかった。

 冷たさからか、全身に硬い鳥肌が立ち、乳首がピンと張っている。ご主人様にお仕置きをされていた頃は、千切れるかと思うほどきつく乳首を道具で挟まれ、「痛いです。許してください。もう我慢できない」と泣きながら喚きながらもメス穴をぐしょぐしょに濡らしていたのに、今はただ凍りつきそうなだけだった。

 私の体はまだ体温があるのか、肌に張り付く雪が溶けて、髪をぬらし、頬を濡らし、くちびるを濡らし、胸を濡らし、腕を濡らし、太股を濡らす。

 太股を伝う水滴が、まるで大きな塊のように感じる。特に内股を伝っていく感触は、自らの欲情の汁やご主人様の愛汁を伝わせるのとは違って、酷く私を不愉快にさせた。私のメス穴の周りにある毛は、ご主人様に剃られてなく、冷たい風が直接メス穴をなぶる。雪が溶けて無機質な水を流すだけで、私の中から流れてくるものは、もう何もない。

 私はギリリとくちびるを噛み、自らの肌を撫でていた手をメス穴へと持っていき、指を穴の中へと突きたてようとした。

 しかし、穴は乾ききっていて、指の挿入を頑なに拒んだ。

 それでも無理にねじ込むようにして、二本の指をぐりぐりとねじ込んだ。

 無感覚に近い、虚しくて空虚な痛みが頭を揺さぶり、吐き気を催した。

 私は誰もいない海へと叫びだした。

「ご主人様!私のはしたなくていやらしくて、喜んでご主人様の肉棒をしゃぶるメス穴はこんなにも乾いています!痛いです。乾いて…痛いんです…ご主人様がいないと、こんなに…なにも…感じない…」

 自分が肉の塊以下のものになったのを強く感じた。

喜びもない、苦痛もない、感じる愛情も、主を祈るような懇願も、肉も心も全てぶつけてはじけるような達成感も、貪欲に求めていきたい疾走感も、痛みからにじみ出る血潮の感涙も、なにひとつなかった。

 灯台の灯火は、魂の抜け殻を燃やして一月の終わりを照らしている。

 くるくると回転しながら、水気を含んだ重い吹雪の花を散らして、私だけに見える空虚な輪郭に縁取られた向こう岸を示していた。




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